「加奈ね、言ってたんだ。
会社…辞めなくて良かったって。
修司に感謝しないとな…って。」
柚木ちゃんの視線が俺へと向けられる。
「加奈が失恋して、仕事辞めようかな、って言ったとき修司、止めてくれたんでしょ?
加奈、すごく感謝してた。
今ね、会社で大きいプロジェクトのメンバーに選ばれて、忙しいけどすごく充実してるんだって。
だからあのとき辞めなくて良かったって。
逃げ出さなくて良かった、って笑いながら言ってた」
寒いせいか、いつもより近い俺と柚木ちゃんの距離。
肩が当たるくらい、柚木ちゃんが傍にいた。
「なんかあたしたち姉妹…修司にお世話になりっぱなしだね」
え?という顔で俺が見ると柚木ちゃんは言った。
「加奈が失恋したときも、励ましてくれたのは修司だったでしょ?
で、あたしが失恋したときも…励ましてくれたのは修司だった」
柚木ちゃんが失恋したとき…
ああ、あのときか。
幼なじみの慎くんが婚約するから、と言って自分のキモチに終止符を打つために告白した柚木ちゃん。
見事、粉砕。
そんな柚木ちゃんを俺は…抱きしめた。
そんなことも…あったっけなぁ…
遠い昔のようでまだあれから半年ほどしか経っていない。
しみじみ感じる。
時間の流れはとてつもなく、速いんだな、と。


