「ね、修司」
さっきとは違う、声色。
「あたし…彼氏と、別れたんだ」
あんなに酔っぱらっていたはずなのに口調がはっきりしている。
酔っぱらったフリをしていただけなのか?
「あたし…二股、かけられてたんだよ…」
そう言った加奈さんは泣き出して。
でも泣きわめくワケではなく。
静かに、涙を流した。
その横顔は月に照らされ、すごくキレイだった。
「秘書課の子と二股かけられて。
それ知ったときは怒りより悲しみのほうが大きくてさ」
どうして加奈さんは俺なんかにそんな話をするんだろう。
「すごく、好きでさ。
なのになんで二股かけられてることに気づかなかったんだろう、って。
自分の愚かさに笑えたよ。」
加奈さんは大きな溜め息をついたあと、
ふっと小さく笑った。


