「……しゅう、じ?」


加奈さんの声。

でも俺はその声に応えることができなかった。


だって…だって目の前で好きな人が他の人に告白してるシーン見て。

しかも抱きしめちゃうところも見て。


放心状態。

さっきの映像が何度も頭の中でリピートされた。



夜の住宅街の静寂を破る初めて聞く声。



『…ゆず、ごめんな…』


ハスキーな声。

大きな陰は小さな陰と離れた。



『俺は、願ってる。

お前がちゃんと幸せになってくれること。』


柚木ちゃんの声よりはっきり俺の耳に届いた。




『ゆず、いい恋…しろよ。

もう俺のこと、追いかけるなよ』


大きな陰の手が伸びる。

その手は小さな陰の頭に乗った。


でもすぐにその手は消える。



ポツンと残る、小さな陰。


胸の奥がズキズキと痛かった。

泣きそうなくらい、痛かった。


この想いをどこにぶつければいいのか分からなくて。

ありったけの力をベランダの柵にぶつけた。