リク王が執行を決めた当日。リュークは快晴だった。
雲1つない空は青いグラデーションに冴え渡り、鳥が嬉しそうに飛んでいる。
アルムの少し暗い気分も、この空のおかげで晴れた。

「それじゃあ、行ってきます。」

いつものように、リンゴを摘みに行くと言って家を出た。
昨晩打ち明けようかと、寝る前に考えてみたけど、やっぱり無理だった。
病気で寝たままの母と、厳格な父を目の前にして、これから死に行きます、なんて言えるはずがない。
それがたとえリュークの為だとしても。名誉だったとしても。

リンゴ摘み用のラフな格好では城に行く事はできない。
家から東の山へ進み、いつも薬草を採っている森林で、灰色のオーバーオールから黒いスラックスと、白い襟付きシャツに紺色のネクタイを締めた。
早朝の森林は葉に朝露か滴り、光に反射してキラキラ輝いている。
これから街の関所と通って、北西にある城へ向かう。
本当はリリアに最後のお別れを言いたかったけど、泣き顔を見ると辛くなる。

自分に与えられた選択肢は最初から1つだった気がする。
神様は“お前が平凡で優しく、無垢が故”と言っていた。
その理由で自分を選んだのなら、この国のために自ら死を望むことも簡単に予想できる。
いや、神様をそんな風に疑ってはだめだ。

「おや、アルム。今日はまた朝早くからどこへ行くんだい?」

アルムは考えながら歩いていると、いつの間にか関所に着いていた。
門番のレスターが眠たそうに挨拶をしながら聞いてくる。

「おはようございます。ウォール街の朝市に行きたくて、早起きしたんです。」

ウォール街はここから北にある、東が海に面している街。
野菜畑や果樹園も豊富で、毎朝魚や野菜、果物の市場が開かれている。
アルムは軽い罪悪感を感じながら、そう言った。
レスターはそれを信じ、快く通してくれた。
すれ違う時、アルムは心の中で別れの言葉を呟いた。

関所を抜けて、森の中を北西目指して歩く。
ここからは約1時間ほどで城下街に着く。
人の作った道をしっかり踏みしめながら、アルムは歩いた。
1歩1歩、その柔らかくて温かい土の感触と、緑の匂いを身体に刻み込むように。