静寂に包まれた、神聖なる場所。
城下街、リニールはリューク王国で最も大きな街。
この教会に訪れる人もまた、多かった。

「神父様、私は罪を犯しました…。」

「ほぉ、どんな罪ですか?」

リニールの西側に住むネイラは、初めて教会を訪れた。
今まで真面目に生きてきた彼女にとって、懺悔は必要なかった。
だが今は、神にも縋りたい気持ちでいた。

「私は、母と2人で暮らしていて、生活費は私が働いて稼いでいました。」

礼拝堂の隅にある懺悔室。
中は小スペースで、中央は小さな窓のついた木製の壁で遮られている。
神父の顔は見えず、向こうも同じくこちらの顔は見えない。

「つい昨日のことです。給料日前の私にはお金がなく、前貸りを頼んでも許してもらえず…。途方に暮れていた時、無人のお店を見かけて…」

そこまで言って、ネイラは躊躇した。
続くであろう言葉を、神父が代わりに言う。

「その店からお金を盗んだ…。」

ネイラは咄嗟に、俯いていた顔を上げる。

「無意識だったのです!盗もうだなんて、ちっとも考えてなかったのに…。」

目に涙を浮かべ、必死で弁明するネイラだったが、神父の声は冷たく響いた。

「それでも盗んだ事は事実。貴方は罪人になった。」

途端、ネイラは泣き崩れた。
両手で顔を覆い、子供のように声を上げて泣く。

「神父様、どうしたらいいのでしょう…。
お店の人は私がやったなんてこれっぽちも思っていません。正直に言おうと何度も思ったけど、言い出せなくて…。」

神父はネイラからは見えることのない口を、三日月型に歪めた。