木々が風に揺れてざわめく夜。
小さな民家から聞こえてくる哭泣(こつきゅう)。

「ほらほら、いい加減に泣き止んでちょうだい。」

「だって、おじさんが恐いお話したんだ。キールって悪魔のこと。」

小さな子供がしゃくりあげながら震える。
今夜は月が雲に隠れていて、暗い。

「キールねぇ。どんなお話だったの?」

母親に聞かれて、子供は再び泣き出す。
よほど恐かったらしく、母親は慌てて謝った。

「ごめんね、でも大丈夫。お母さんが守ってあげるから。お父さんだっているわ。ね?」

なだめ、言い聞かせるように、優しく微笑み抱きしめる。
子供は安心したのか、少しずつ眠気に身を委ねていった。

―でもお母さん、キールは狙われた人にしか見えないんだよ―



日も傾きかけ、村中の家が赤く染まる。
小さな子供はまだ友達と遊んでいた。

「あそこの家のオヤジ、起こると面白いんだぜ!」

友達の1人がそう言った。
だから皆でいたずらをすることに。
小さな子供を入れて4人。
全員いっせいに、民家の中に窓から石を投げ入れた。
皿やガラスが割れる音と、男の怒鳴り声が聞こえてくる。

「くぉらー!!誰だー!!」

勢いよく開いた扉に続き、お玉を片手に家の主人である男が出てきた。
友達は笑いながら叫ぶ振りをして、散り散りに逃げる。
しかし小さな子供は逃げ遅れてしまった。

「おら!捕まえた!逃がさねぇぞぼうず!」
襟首をつかまれ宙に浮かぶ。
足をバタバタ動かすが、力及ばず目を合わせられる。

「まったく、こんなことばかりしてると、キールに狙われちまうぞ!」

男がそう言いながら、一度お尻をぺしっと叩いて小さな子供を降ろした。
さほど痛くなかったお尻をさすりながら、子供は首をかしげる。

「キールって?」

「なんだ、キールを知らんのか。なら教えてやるよ。」

呆れた顔をしていた男が、にんまり笑った。