『転校……?』


ふわふわの赤い毛糸の帽子を被って

温い格好をしている香が


キョトンとして訪ねた。




『……うん』

青いマフラーをして

暖かい格好をしている昌春は


しょぼんとして答えた。



それは、2人が小3の時の冬。



『なんで?』


『お父さんの仕事の都合だってさ』


『…昌春………何処に行っちゃうの?』


『…北海道だよ』


『北海道ってどこ?』


『………昨日、習ったとこじゃん』


『分かんないよそんなのっ!』


『キレるとこ間違ってるよ香。和泉先生が、言ってただろ?“地理は、大人になっても必要な教科ですよ”って』


『そんなこと覚えてるの昌春ぐらいだよっ!』


『このくらい覚えとけよバカっ!!』


『バカじゃないもんっ』

はぁ…とため息をつく昌春。


『……香さぁ、俺がいなくなったらどうすんの?』


『……どうするって、』


『俺は、もうすぐいなくなるんだよ?』


『………嫌だよ。………昌春。何処にも行かないで…ずっと、香の側にいてよ』


と香は、シクシクと泣き始めた。


そんな香を昌春は、

ツラそうに見つめていた。


『………ごめんな?そのワガママは聞いてやれない。』


昌春は、うつむいた。



『……なんで?』


『だって、俺がまだ子供だから……』


『香は、そのままの昌春に側にいてほしいよ』


『……違うよ、香。俺が、まだ子供だから香をお嫁さんに出来ないってこと』


『え?』


『いつか、俺がデカくなって香を守れるようになったら絶対に香をお嫁さんにもらいに行く…だから、その時まで待ってて?』


『…………』


『…絶対、絶対迎えに行くから──…俺のお嫁さんになってくれる?』

昌春は、オドオドしながら訪ねた。



そんな昌春の不安を吹き飛ばすように、


『……うんっ!』

と香は、満面の笑みで答えた。