「ねこ……」

猫が、いる。

雨宿りをしているのか、それでも濡れた地面にちょこんと座り、こちらを見つめている黒猫。


「野良猫……?」

かなりの確率でそうだと思う。

薄汚れた身体は痩せ、寒さで震えていて首輪もしていない。


野良猫だとすれば、ひとりだということ。

この黒猫はそうなのだろうか。

「にゃあ……」

まるで救いを求めるような寂しい瞳で、私を見ている。

「君、ひとりなの?」
 
ひとりぼっちの辛さは、生半可なものじゃない。

少なくとも私はそれを知っている。







「……うちにくる?」

差し伸べた手は、きっと同情からくるもの。

そんなものしちゃいけない。

偽善にも見えるこの行為にあるのは、自分のエゴ。


分かっているのに、私の手は傘を放して猫のもとへ伸びていた。




「……にゃあー」

しっかりと腕に抱き抱えたとき、“彼”は戸惑いながらも嬉しそうに鳴いていた気がした。