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「ただいまー」

誰もいない玄関に向かってそう言いながら濡れたスニーカーを脱いだ。



――両親が交通事故で他界したのはもう五年も前のこと。

悲しくて悲しくて、心が折れてしまいそうだった。

残ったのは、唯一の肉親となった十一歳年上の兄と、両親が残してくれたこの家。

お兄ちゃんは私のためにと、がむしゃらに働いてくれている。

そんな妹バカ、……心優しい兄と二人でこの思い出の詰まった家で暮らしていた。

でも今は海外出張でアメリカに行っているから私一人だけ。

一人で過ごすには広すぎるこの空間に慣れたのは、いつからだっけ。

誰もいない家に一人で帰るのは、さみしかった。










だけど今日は違った。

ずっと抱き抱えていた猫を床にそっと降ろし、近くにあったタオルで濡れた身体を拭いてあげた。

私がそうしている間、猫はずっと私を見ていた。

それにしても……

「変わった眼の色してるなあ……」

猫の瞳は左右違う色をしていた。

右は深い森のような緑色、左は空を写し取ったかのような澄んだ水色。


すごく、きれい。

空と森の美しいコントラストに、思わず見入ってしまう。


「……オッドアイ、か」

そう呟いて猫の身体を拭き続けた。