「んしょ…」

古く、重い、庭に通じる扉を開く。
それは本当に重くて、力のない私は両手で取っ手を持って引かないと、びくともしなかった。

「ふぅ…。あ、」

扉を開けたそこに広がったのは、整っている、青々とした芝生に植木だった。

花たちは「私を見て!」と言うように太陽に向かって自己主張し、咲き誇っている。

そして庭のど真ん中には、今が見頃の八重桜の大木がどっしりと構えていて、大振りな枝の下には白いテーブルと椅子が並んでいた。

まるで、絵本の中に迷いこんだような錯覚を覚えた。

「き…れい、」

桜の下まで行くと、雨のように花びらがくるくる踊りながら、舞い降りてくる。

その様子はあまりに幻想的で、時間が止まったのかという錯覚まで覚えた。

さながら不思議の世界に迷いこんだアリスみたい。
白い兎は追いかけてなんかいないけど、小さくなる薬なんか飲んでいないけど、イカれ帽子屋や三月兎、眠りネズミに双子のディーとダム、トランプ兵にハートの女王様にも出会ってなんかいないけど、優しい執事様には出逢った。

奇跡みたいな確率で。

「すごいなぁ…」

「何がすごいのかな?お嬢様」