今日も君が笑顔でいられますように



結局、私は駅までお母さんに車で送って貰った。

駅に着くまでの間中お母さんはぶつぶつ文句を言っていたけど、もう慣れっこな私は軽く流して外を眺めていた。


いつも見慣れた駅までの道だけど、一ヶ月近くも見られないんだと思うと何故か無性に愛しく感じた。


どうせ、学校が始まれば嫌でも見なきゃいけないのに、私は忘れないように、このどうしようもない東京の街を眺めていた。




駅に着くと、お母さんは「もう、帰って来なければいいのに」

と文句を一つ言って、私の顔を一度も見ないまま車を走らせて行ってしまった。


いつものことだ。


お母さんが私の顔を見て話すことなんてない。


いつものこと。そう自分に言い聞かせて、自分の本当の気持ちに気付かないようにした。




あらかじめ取ってあった切符を見ると、発車まであと20分だった。


急いでホームに向かう。

ちょっとの間東京ともお別れかぁ。なんて思うとちょっとだけ寂しかった。


まぁ、いいや。大好きなじーちゃんたちに会えるんだ。


私はほんのちょっとの寂しさと、大きな喜びを胸に新幹線に乗りこんだ。






東京からじーちゃんの家がある田舎までは4時間かかる。


目的地に近づくほどに周りの景色も、変わってくる。


高いビルやたくさんの家が消え、田んぼが増える。


いつの間にか窓から見える景色は田んぼだけになっていった。


どこまでも続く平野は何故か私の心を穏やかにしてくれた。

こんな気持ち久しぶりだ。
なんて思いながら窓を開け、風に髪をなびかせる。


「おじいさん、綺麗ですねぇ」


通路を挟んだ隣の席から声が聞こえる。


そこには、深いシワをさらに深くさせて笑う老夫婦がいた。


二人手を繋いで、本当に幸せそうに外の景色を眺めている。