「お前、俺のスーツ、汚しただろ!」

 あいつは俺の下宿の駐車場にバイクを着けて肩越しに言った。俺は恐れていたことが現実になったと思った。頭の中がかき乱れた。
「あ、・・・ああ、あの・・・」
 しどろもどろだ。恥ずかしさよりも終わった、という喪失感。それも軽蔑つき。
 俺はバイクを降りたところから一歩後ずさりして、ズボンのポケットに両手を突っ込んで、まだ大きさを保っているぐんにゃりしたものを目立たないようにしようとしていた。とろりとしたのものがズボンの中の左足の腿に垂れるのが分かる。厚いズボンの生地が汚れが見えるのを防いでいてくれる。
 あいつは肩越しに自分の背中を見ようとしながらバイクを降りた。
「お前の家に寄って汚れを取るよ。しみが残ったらクリーニング代くれよな!」
 俺を蔑むように言った。小悪魔のように笑った。
「あのくらいで結構だらしないな!」

 古びたマンションの露天の階段を、あいつが胸もとのジッパーを緩めながら先に上がってゆく。あいつの歩き方は、普通の男がやる無骨なものではない。だが、女のようでもない。背筋を伸ばして歩く姿が優雅に見える。アスリートらしい大きなお尻が目立つ。

 俺は後ろからあいつの股間を盗み見た。ぴちっと張りつめたスーツの右腿の付け根に汚れがあった。それが俺の出したもののせいか分からなかった。