あいつはいたずらっぽそうに笑って、
「・・・でも男同士でくっついてどうするの?この主人公の中年武士と少年は?子供も作れないんじゃない。いつかお互いに飽きるんじゃない?」

 明らかに俺の小説を批判する奴と同じ口調だ。

「結末は一緒に死ぬことさ」
「えっ?」
「この頃は現世は一時の仮住まいという思想があったんだ。彼らは共に戦いそして死ぬ。それが彼らの今生の恋の成就なんだ」
「・・・」

 あいつは目を大きく見開いて俺を見た。

 俺はびっくりした。

 俺の言葉を目を丸くして聞いていたあいつの目から涙が一筋流れたのだ。

 俺の心臓がずきんと痛んだ。

「へ・・え。そんな恋があるんだ」
 あいつは指で涙を拭うと、
「へへ、俺、涙もろいんだ。筆が進んだらまた見せてくれる?」
「ああ、興味があるなら」

 あいつは店を出て行った。あいつの涙を流した顔が俺の脳裏に焼き付いた。