あいつは俺たちのやりとりに面白く無さそうな顔をしているHに手を振ると、俺に荷物を持たせて歩き出した。
「クラブはどうだった?」
「・・・疲れた。でも練習試合で6点入れたよ。キャプテンに尻触られた!あはっ」
 あいつは俺の反応を楽しむように俺の顔を見た。

 京浜急行の特急の中であいつはポケットに手を突っ込んで、ドアの端に寄っかかって眠そうだった。俺はあいつを右にして開閉ドアから外を見ていた。
 あいつを見ると、俺の方を向いてうつむき加減で目を瞑っている。俺はどきっとした。
 微笑むように穏やかに目を瞑っているあいつは幸せそうで、天使の様だった。十八になったばかりの体はまだ骨張っておらず、中性的な柔らかさを保っている。髭は生えない体質らしい。頬や顎は少年のようなまろやかさを保っていた。俺と会ってから伸ばしている、真っ黒で艶やかな髪は頬と首に優しく垂れている。
 はじめて会ったとき暗い茶髪に染めていたが、あるとき止めろと言ったら次の日に落として来たのだ。あの時はまさかこんな仲になるとはつゆにも思わなかったが。
 周りの女学生からため息と囁きが聞こえた。
「・・・あの子、可愛い・・・」