俺はじっと見入っていたが、ようやく体を動かした。
 あいつは何も知らないのかも知れない。俺の気持ちを気づかれれば、後ろに乗れとは二度と言わないだろう。これは、俺がヘマをしなければ、普通の友人としてこれからも続くだろう交友の一コマなのだ。
 エンジンを吹かしながら待っている背中におずおずと近づいた。
 幸運にも、俺の興奮は歩くことによって収まってきた。
 あいつの体に触れないように後部の座席に跨る。あいつの背筋はいつも伸びている。俺より一回り小さい体格のあいつのうなじが間近に見える。
 あいつが半分振り返った。
「なんだよ。それじゃ振り落とすよ。俺の体に捕まれよ!」
「こ・・こうかい?」
 俺はあいつの胴に手を回した。
「もっと強く捕まらないと駄目だ。」
 あいつは何故か、にやりとしたようだった。
 俺は自分の左手首を握った。胸があいつの背中に触った。スーツのゴムの臭いがした。あいつの髪の匂いと混ざっている。鼻に神経を集中させる。