エピローグ

 俺はゼミを終わってキャンパスを出ようとしていた。あいつは今日からサッカーの合宿だ。
 あいつに誰かが言い寄らないかと心配だが、普段のあいつは喧嘩っ早く口が悪く、同性の恋愛対象にはちょっとなりにくいだろうと自分を安心させる。
 年下のあいつが、俺と俺の仲間の何を気に入ったのか分からなかったが、俺たちと居ると気を許せるのだろう。
 俺と二人だけの時は俺好みの性格になる。
 悪友達は俺とあいつが最後まで行ったとは思って無いようだ。ただ、お互いに好きあっていることは一目瞭然だ。

 あいつとベッドの中で交わした秘密の睦言を思い出しながら歩いていると、俺の横をすれすれにバイクが追い越して、直ぐ前の道の花壇の前に止まった。あいつのバイクではないが、ぴかぴかの400CCだ。
 赤いヘルメットとレザーのスーツを着た男がバイクから降りてこちらを向いた。ヘルメットを取ると長い髪が肩に落ちた。
 1年から参加できるゼミに最近入ってきた下級生だ。髪が女の様に長く、口の端がいつも笑っているように切れた美形だ。水谷薫とか言ったな。周りの女どもが騒いでいたが。
 この間、彼の論文の読み込みの足り無さを指摘した。奴はむっとした様子で聞いていたが。
 そいつは乱れた前髪を右手で梳いて左手で肩の前に垂れた髪を妖艶な仕草で後ろに流した。そして上目使いに俺に言った。
「大介さん、この間の論文のことで、教えてほしいことがあるんだ」
「・・・俺にか?」
「・・・うしろに乗る?」