俺に性懲りもなく近づいて来るあいつに驚いたが、あいつの手を握った。拒まなかった。俺は安らかな気分だった。あいつの息づかいが耳元でする。
 あいつが囁いた。
「・・・良かったの?あのとき。俺なんか抱いて満足出来たの?」
 俺は再び驚いたが、
「・・・ああ、俺の人生で最高の時間だった。お前には辛かったろう。すまない・・・」

 あいつが俺の上に覆い被さってきた。
 あいつの口が俺の口に近づいた。潮の匂いの息が俺の顔にかかった。
 もうあり得ないと思っていた状況の期待に、俺の心臓は高鳴り始めた。
「今夜だけまた、お前のものになってやる。でも今度は俺を満足させろよ」
 眠気が覚めた。
 俺はあいつの上になった。

 俺たちの部屋には俺たちの甘く湿った体臭が立ちこめていった。