バタンッ…っと聞こえたのも束の間だった。翔を捕らえたほんの一瞬の間に諒ちゃんは車に乗り込みクラクションを鳴らす。


「えっ、ちょ、ちょっと待ってよ!!」


そんなあたしの声など諒ちゃんの耳には届かず、諒ちゃんは車を発進させる。


うっそ…諒ちゃんの馬鹿!!


思わずあたしの顔がしかめっ面になり少し唇を噛みしめた。翔からゆっくり視線を逸らし俯く。

頭の中で流れ込むのは、ただ、どうしょう。と言う言葉ばかり。今更、何言うの?さんざん避けといて今更話す事なんて何もないよ。

最悪って自分でも分かってんだよ。だけど、それ以上嫌なのは、あたしの生き方に最低って思われたくない。

翔には何も思われたくないんだ。あたしの生き方に…


だって仕方ないじゃん。家計苦しいんだよ。どうする事も出来ないんだよ。

最低なのは分かってる。だけど翔には思われたくないし言われたくない。自分勝手に物事を発言してるかもしんないけど、仕方ないんだよ。


今更ゴメンなんて言えない。


目を瞑って深く深呼吸をすると、あたしは何も言わずに翔に背中を向けた。ゆっくりと足を進めて数歩歩いた時、


「帰んなよ」


背後から低い呟いた翔の声が聞こえた。