「うん。ホント何でもないから。…そろそろ帰ろっかな」


どれくらい居たのかは分からないけど、窓の外に目を向けると、もう日が落ちていた。

鞄を持ちゆっくり立ち上がると、


「美咲。ありがと…」


葵の沈んだ声が小さく聞こえ、あたしは葵に目を向ける。

葵は上半身を起こしてベッドから降りようとしていた。


「いいよ、寝てなよ」

「ううん。大丈夫」

「ダメ、寝てな。それよか2日くらい学校休みなよ?」

「ううん。行くよ…風邪の言い訳も、もう通用しないし」


そう言って葵は少し眉を下げ俯いた。


「そっか…。うん、でも無理しないでね」

「うん」


玄関まで送ると言った葵を断り、あたしは葵の家を出た。


結局、諒ちゃんの名前を出したのにも係わらず何も言えなかったし、葵を戸惑いさせただけだった。

と言うか、何を言いたかったのかもあたし自身、分からない。


まぁ、諒ちゃんの事はどうでもいい。

どうでもいいって言うか、諒ちゃんの事は心配しなくていいって感じだし、とりあえず今は、あたし…


自分自身の事を少しでも前に進めたいと、そう思った。