「ただいま」

がらりと玄関の戸をあけるが、返事は無い。

「珍しく、久遠が抹茶を点ててるんじゃないかな。
 折角だから、いただかない?」

智さんに誘われて、私が断るわけもない。
そっと、茶室に向かえば、久遠さんが丁寧な仕草で、奏さん相手にお茶を点てていた。

本当。
普段の尊大な態度を取る人物とは別人にしか見えないような、仕草に私は思わず目を奪われる。

慣れている智さんはさっさと座るが、私はどうして良いか分からずおろおろするばかり。

「作法なんて教えるのも面倒だから、ここに座れ」

普段の尊大な態度そのままの口調で、久遠さんが言う。

「失礼します」

「どうぞ。
 折角だから、飲み方くらいは教えようか?
 特別に無料で」

無料で、ってところをやたらと強調するなんて。

本当、お金持ってケチなんだから。