女子高生夏希のイケメン観察記

「だから、その、クロって何なんですかっ」

母親がその『クロ』であることは間違えないと感じつつある焦りから、私の口調は自然、キツいものになってくる。

「黒脛巾組(くろはばきぐみ)。
 彼が創設したと言われている忍者集団の総称。
 その略称なんじゃないの?」

ふいに、後ろから艶やかなテノールの声が聞こえてきた。

耳に覚えのある声に、私は思わず振り返る。

「歴史の勉強くらい少しはやっておけよ。
 それより、宿題は順調か?
 千崎」

入り口にもたれ、腕を組むその姿は計算されつくしたように完璧で、もし相手が知らない男だったら息を呑んでいたと思う。

イケメンメモに書きたくなっちゃうくらいの、素敵なポーズなんだもん。

でも。
残念ながら、彼は私のよく知っているイケメン。

つまり、担任であり、通称――殿。


「あら、殿じゃない。
 お久しぶりね」

巫女さんは、動揺することも見蕩れることもなく、やや冷たい声でざっくりとそう言い放った。