大切な時間

 時間が進むのは憎いくらい早くて、いつのまにか外は暗くなっていた。また現実に戻るのかと思うと悲しくなってきて、帰りたくはなかった。この家の子になりたいとまた思ってしまった。

「アキちゃんご飯食べていくでしょ?」
 突然おばさんが当たり前のようにそう聞いてきた。
「え、いいんですか?」
 前と変わらず当たり前のように聞いてくれたのがすごく嬉しかった。もちろん、お言葉に甘えて夕食はいただく事にして、家に連絡をした。お母さんは私が太一の家にいる事に関しては特に何も言わず、
「ちゃんとお行儀良くするのよー」
 とだけ言って電話を切った。今日朝起きた時は今ここにいることなんて想像もしてなかったのに。強く想うとなんでも叶っちゃうのかな。

 夕ご飯は太一の好きなハンバーグだった。このハンバーグの味も変わらない。ここでは変わってないことだらけで何もかもが輝いて見える。ここにいたら、私もまた輝けるのかな。

 ご飯を食べた後も話題は尽きず、太一の元カノの話まで聞いてしまった。結構長く続いていたらしい。嫉妬心がなかったわけではなかったけど、ふと別れた原因が気になった。

 時間が経つのは本当に早くていつのまにか十時になってしまっていた。
「あらやだこんな時間になっちゃったわね」

「それじゃあそろそろ…ごちそうさまでした」
 そう言って立ち上がると、もう一度座りたくなった。帰りたくはないけど仕方がない。もう小学生じゃないんだから。

「アキちゃんまた来てね」
 といって大きく手を振るおばさんにもう一度挨拶をして、バス停まで太一と一緒に歩いた。バスを待っている間どうしても確認しておきたいことがあって太一の方を向く。

「太一のことまだ幼なじみだと思ってていいかな」
我ながら少し恥ずかしいことを言ったと後悔していると、太一はこう答えた。

「俺は幼なじみだとずっと思ってたよ」

 その時丁度バスが来てたいした返事も返せずバスに乗ってしまった。けど席に座った途端嬉しさが込み上げてきて笑みを隠せなかった。窓から外を見ると暗くて顔は見えなかったけど太一が手を振っているのが見えた。私も手を振り返したけどもう遠くて見えなかったかもしれない。