大切な時間

 家に入ると太一のお母さんがエプロン姿で迎えてくれた。
「あらアキちゃん、どうしたのー」
 あの頃と変わらずおばさんは優しい笑顔で出迎えてくれた。太一に逢いたくなって来ましたとはさすがに言えなかった。

「母さんに会いたかったんだって」
「ぶっ…!」
 太一の言葉に思わず鼻水が出そうになる。おばさんは「あらやだー」と言いながら笑っていた。

「お久しぶりです」
 先ほどの反応をごまかすかのように私は丁寧にお辞儀をした。部屋の中も全く変わっていなくて、小さい頃よく太一がいない時も遊びに来てた事を思い出す。この家の子になりたいってよく駄々をこねてた。

「母さん甘栗あげる」
 太一がさっき買った甘栗をおばさんに差し出した。
「それ私に買ってくれたんじゃなかったのっ?」
 と、思わず声に出してしまった。
 すると太一がまた笑いだした
「やっぱり欲しかったんじゃん」

「そうだったの?いいよアキちゃん食べて」
 おばさんにも笑われてしまった。く…くそ。

 その後三人でずっと昔の話をした。夏休みに家族で川にバーベキューをしに行った事、花火大会は私の家のベランダが特等席で、毎年うちで花火を観てた事。
 考えてみれば私は夏が大好きだったことに気付く。夏はいつも太一といた事にも気付いた。夏に輝いていたのは私だったのに…いつのまにか輝いている人を羨んでいた。

「アキちゃんなんか変わったよねえ」
 突然おばさんにそう言われた。確かに変わったかも知れない。もうあの頃みたいに輝いていないから。考えてることが顔に出てしまったのかもしれない。おばさんが可愛くなったとフォローしてくれた。
「うん、可愛くなったね」
と太一まで言ってきたことに驚き、また嬉しくて、ついつい顔がにやける。

「あ、誉められて照れるところは変わらないね」
 と二人に冷やかされた。