大切な時間

 マンションからは少し遠いコンビニまでの道で私たちは色々な話をした。お互い恋人はできたのかとか、誰と誰が付き合っているだとか、恋の話ばかりで、あの頃のように自分がまだ太一の事を好きな気がしてきてしまった。
 太一は最近彼女と別れたみたいで、心がすごく揺れた。だけど好きだったのは小学生の時なんだから、そう自分に言い聞かせた。
 夏の差すような日差しはいつの間にか私を暖めてくれているようであった。懐かしい話をして、私の心はほっこりと暖かくなった。

 太一はコンビニでコーラとファッション雑誌を一つずつ取ってレジに並んだ。私はレジの横に置いてある甘栗を太一に差し出して、
「えっ、買ってくれるの?うれしいなぁ」
 と冗談で笑いながら言った。太一は、
「なんでだよっ」
 と笑いながら突っ込んでくれるはずだった。

 太一の突っ込みを期待してると、太一は
「ん、いいよー」
 といって一緒にレジに出してしまった。

「冗談だよ!いいよいいよ、ごめん」
 予想を外した私は焦って謝る。すると太一は

「え、だって甘栗好きでしょ。いいよ買うよ」
 と言って会計を済ましてしまった。

「覚えてたんだ...」
 その声は太一には聞こえなかったみたいだけどそんなことはどうでもよくて、太一が細かいことまで覚えててくれた事がすごく嬉しかった。
 本当にあの頃に戻ったみたいで...。

「しかし久しぶりだねー、何年ぶり?五年?」

「五年。本当に久しぶりだよね。そういえば太一のお母さん元気?」
 太一のお母さんは絵本を何冊も描いていて、隠れファンの私は五年間密かにその絵本を買っていたのだ。

「元気だよー」
 そんなことは知らない太一がそう答える。
「おばさん絵すごいうまかったよね、前に私に絵本描いてくれたんだよ」
 以前絵本作家になる前に私の為に絵本を描いてくれた。馬鹿なことにその大切な絵本をなくしちゃったんだけど...。

「...ふーん」
 太一は大して興味がなさそうに答えた。家族の事を聞くのはあまりよくないのかな。そのまま少し沈黙が続くと太一がこう言った。

「母さん家にいるから来る?」
「うん、いく!!」

「即答だな」
 私のあまりの乗り気に太一がびっくりして笑った。