大切な時間

 そっと顔を上げると予想とは違う太一の顔があった。
 少なくとも私を“ストーカー”だとは思っていないようだ。太一は何がそんなにおかしいのか腹を抱えるようにして笑っていた。どうやら“変人”とは思われたみたいだ。

 しかし私はだんだん恥ずかしくなってきて、

「い…今のはびっくりして押しちゃっただけなんだから!」
 と言ってみた。ところで彼は私の事覚えているのだろうか。

「びっくりする前に何でカメラこっち向けてんだよ」
 太一の笑いは治まらず言葉は続く。

「久しぶりに会ったら変人度が増したんじゃない?」

 この言葉を聞いて一瞬で私は五年前の自分に戻る。

「と、撮ろうとしてたのは前の家が懐かしかったからだもん!大体変だったのは太一の方じゃん!」
 そういえば私は太一から散々“変”とか“天然”とか言われ続けていた。五年で人は変わるものだ。

 
「…私のこと覚えてるじゃん!!」
 抑えつけていた性格が爆発したように私は次々と言葉を発する。ついでに何だか意味のわからない言葉も叫んでしまった。

 すると太一は驚いてような顔になってこう言った。

「忘れるわけないじゃん」

 どれだけその言葉がうれしかったか。私は泣きそうなのを必死に堪えて笑顔を返した。

「やっぱり変なとこは変わってないね」
 太一はまた笑いながらそう言って、左側の階段から降りて来た。

「今からコンビニ行くけど行く?」
 太一が私の目の前に来て言った。あの頃は私より小さかったのに、今では私が見上げなきゃだめだ。太一は私を見て一瞬固まった。そして何を言うのかと思いきや、

「あれ、アキ縮んだ?」
太一が伸びたんでしょ。というと太一は真面目にこう返してきた。

「俺ちょっとしか伸びてないよ、アキが縮んだんだよ」
…太一って天然だったっけ?