大切な時間

 太一と打ち合せて、当日はじんべいを着ていく事になった。最近のここの祭はじんべいか浴衣を着るのが当たり前らしい。

 オレはじんべいなんか持ってないから太一に借りることにした。しかし太一の古いじんべいは小さくて、オレには着れない。太一のお母さんが浴衣を出してくれたが、オレはびっくりするくらい浴衣が似合わず、結局太一が浴衣を着て、オレが太一のじんべいを着ることになった。

 約束の時間より前に二人でバス停に行きアキの乗るバスを待った。
 バスから降りて来たアキはピンクの浴衣を着ていて、めちゃくちゃ可愛かった。オレはあまりの可愛さに動揺し、
「意外とピンク似合うね」
 と若干失礼なことを言った。しかし太一も同じく動揺していたらしく
「紺だと思ってたんだよ」
 なんて意味のわからない事を言っていた。
 それはお前の好みだろ。と心の中で突っ込み、自分が動揺しているのを隠した。

「今日は暑いな」
 太一が浴衣の袖を捲りながら暗くなりかけた空を仰ぐ。
「ああ、かき氷食いてえ」
「そういえば昔公園で売ってたかき氷三人でよく食べたよな」
 と太一が懐かしい話をする。
「いつもアキ同じ味だったよな。なんだっけ?いちご?」
 と言ってアキを見るオレ。そのアキはと言えば一歩後ろで鼻歌を歌いながら歩いていた。そしてきょろきょろと嬉しそうに周りを見ている。

「…置いてくか」
「ああそうしよう」

 そこでオレ達は走りだした。アキが半べそをかいて追い掛けてくる姿が頭の中に浮かんでくる。
二区画ほど一気に走った後太一と笑いながら振り向いた。

…あれ?アキがいない。

「どこいった?」
 太一もキョロキョロしている。
「あいつ道間違えてるな。最近この道変わったから」
 太一が呆れたように言う。たぶん自分自身に呆れているのだろう。

「戻ろう」
 太一と二人で来た道を戻って違う道を進む。しかし、アキを見つける前に会場に着いてしまった。
「携帯使えねえのか…」
 太一が携帯を見ながら言う。

「手分けして探すか。三十分したらあの銅像の前に集合な」
 太一の行動は素早かった。オレも捜すか、と思って前を見たら、ピンクの浴衣を来た独りの女の子がいた。

「あ、いた…」