大切な時間

 その後なんとかアキと二人の思い出を話そうと必死になったが、太一と三人で遊んだ記憶しかなかった。何か話さなきゃ!と思って口に出たのは、

「高校出たらどうするの?」
 だった…もっと他になかったのかよ、と自分を責める。しかしアキは笑顔で
「推薦で大学に行くんだ、晃太は?」
 と聞いてくれた。ちらっと見せるアキの笑顔にどきっとくる。

「オレ?オレは美容師の専門学校に行くんだ」

 アキは家まで一時間掛かるからもう帰らなきゃと言って立ち上がった。

 オレも帰ろうと立ち上がると
「送るよ」
 と太一が言った。
「オレも」
 ととっさに言ったが、先に言えばよかったとちらりと後悔。

 アキをバス停まで送ってバイバイした後、太一が話しだした。

「アキ可愛くなったよな、なんかちっちゃくなったし」
 …こいつ天然だったか。アキがちっちゃくなったんじゃなくてオレ達がでっかくなったんだぞ?と突っ込みたい衝動を抑え、オレは「うん」とだけ言った。そして太一とも別れ家路に着いた。

 家に着くと一週間ぶりに姉貴を見た。姉貴は普通の顔をして「よ」と言うと布団を敷いて寝始めた。よく考えればオレの布団がない。どうすればいいのかと突っ立っていると、姉貴の眠る布団の脇に薄っぺらい毛布が置いてあるのに気がついた。

 …マジ?

 毛布を部屋の隅に持って来て寝る前に今日あった事を思い出す。オレの突然の衝動で幼なじみ達に逢いに行くと、彼らもまた突然の出来事で再会していた。これは何かの運命だろうか。そしてアキの顔も思いだす。

「ふ…可愛くなっちゃって」
「うるせー寝ろ」

 俺の呟きに反応して寝ているはずの姉貴の声がした。

「おっ起きてんのかよっ…!」
「寝てる」

 独り言はいかなる時も言うもんじゃないな…。そして俺は口を噤んで再度アキのことを思い出していた。

 今日五年ぶりに会っただけで、オレの昔の気持ちはまた熱くなってきている。

「…ぐふ」

「…」

 そして俺は毛布と共に眠りについた。