大切な時間

「…こーた!?何やってんだよ?」
 と、ドアの向こうから現れた太一は嬉しそうに顔をキラキラさせてそう言った。太一の笑顔は全く変わっていなく、悔しいことにさらに格好良くなっていた。
「いや…あの…田中って…誰?」
 依然として嬉しそうに俺を見る太一は俺を部屋に入れると携帯を取出し、素早く何かを打っていた。
「は?田中?五年ぶりに来たかと思えば何だよー」
 と遅い反応を見せる。
 中に入ると誰もいなくて、代わりに何も変わっていない部屋がオレを出迎えてくれた。

「この前お前みたいにいきなり来た奴がいてさ」
 太一は尚も嬉しそうに話す。段々と俺まで嬉しくなって来た。

「…で?五年ぶりに会えたと思えば人探しか?晃太。ちなみに俺は田中は知らねえぞ」
 そういえば、と俺は自分の目的を思い出した。

「ああ、急にお前らが懐かしくなってアキの家行ったんだけど…」
 と言って俺は上を指差す。アキの家…いや田中の家は太一の家の真上だ。

「お前が引っ越した後すぐアキも引っ越したんだよ」
 と太一が教えてくれた。ということはアキにはもう会えないのか…。不安そうな顔をしていたのだろうか太一がすぐに付け加えた。

「実はアキもこの前ここにいきなり来たんだよ」
 “へ?”と間抜けな反応を見せると太一はアキが来た日のことを話し始めた。そして先ほどアキをここに呼んだことも。

 ピーンポーン

 しばらく話しているとインターホンが鳴った。

「噂をすれば来た来た♪」
 と太一は嬉しそうに玄関の方に走っていった。玄関の向こうにアキがいる…。そう思うと急に心臓が大きく翻り始める。そして心の準備が整わないまま太一はドアを開けた。

 そこにはまさにオレの逢いたかったアキがいた。オレは嬉しさを隠せずににやけてしまった。

「久しぶりー」
「こーた!何してんの!?」
 アキの驚いた顔に何故だか嬉しさが隠せない。オレは十八になったから自立したくて戻ってきたと言った。さすがに母親に虐待されてたなんて言えない。

 久しぶりに会ったアキはすごく可愛くなっていて、黒くて長い髪が逆に新鮮で似合っていた。
「アキ可愛くなったなぁ」
 と言うとアキは照れて赤くなっていた。昔からアキは褒めると赤くなる癖があった。それが可愛くて好きだった。