大切な時間

 それから1週間、姉貴はまだ帰ってこなくて、オレはずっと家の中に籠もっていた。すると携帯が鳴って、画面も見ずに電話に出た。

「もしもし?」

「晃太?お母さん。」
 母親からだった。すぐに切ることは考えずに話を聞くことにした。母親なりに反省しているらしく、戻ってこないか?と聞かれたが、すぐに断った。
 母親は俺の返事に戸惑っていたみたいだが、戻って来なくていいから高校も専門学校も行ってほしいと言われた。
 父親と別れてから姉貴と連絡を取っていたらしく、生活費はすべて姉貴に預けたそうだ。

 オレは学校には行く事を約束して電話を切った。結局俺はあいつの世話になるわけだ。

 電話を持ったまま寝転んで、昔のことを思い出していた。

 同じマンションに住んでいた幼なじみのアキと太一。オレはアキが好きだった。アキは明るくて、いつも太一とオレがバスケをしているのを笑って見ていた。
 その笑顔が好きだったけど、アキは同じように明るい太一の方が好きだったみたいだ。

「あーアキに逢いたいよー」
 今のオレなら絶対仲良くなれる自信があるのにな。

 まだあのマンションに住んでるのかな…。

 オレは無意識のうちにあのマンションへと向かっていた。

 かつて暮していたマンションへたどり着き、一気に三階まで上がった。アキの家の前まで来るとさすがに緊張してきた。

 戻るか…いや、戻ってたまるか!

 オレは勢いでインターホンを鳴らした。

 ちらっと表札を見ると、

「田中」

 …?

 ……!!!
 アキは田中じゃなくて豊橋だったよな?オレは左を向いて走って2階まで降りて、これまた勢いで今度は太一の家のドアを叩いた。これはちょっとした癖で、小さい頃オレだとすぐにわかるようにインターホンを鳴らさずドアを叩くというものだった。
 まさか五年前の癖が出るとは。

 そんなことを考えているとドアが開いた。