由里様が篠宮家を出られた後。

旦那様は、それまでとは一転して、和人様のご教育に力を入れられるようになりました。

「和人も篠宮を背負う人間だ。しっかりと学ばなければならん。」

旦那様は厳しいお方でした。

和人様は戸惑っておられました。

以前の旦那様は、和人様の事を家庭教師に任せきりでございましたのに・・・。

和人様にとって、唯一、心を開いていた家族、由里様もいません。

和人様はだんだんに、心を閉じていかれました。

笑顔も少なくなり、絵を描く事もなくなり、ただ学問・・・。

父の言いつけを守る子供としてのみ、暮らしておられるようでした。

「和人様、あまりがんばり過ぎては駄目ですよ。」

私は和人様が、思いつめたりなさらないように、どんな時でも声をかけました。

和人様の苦しみを少しでも取り除きたい。

使用人としては、出過ぎた真似をしていたかもしれません。


それでも私は和人様の救いになれればと・・・。

それのみを考えていたのです。