「どうか、お幸せに・・・。」

私は由里様に、深々と頭を下げました。

和人様はお屋敷の門の前で、由里様をお見送りする事になりました。

「和人・・・。」

「はい。」

由里様は、和人様の手を固く握り、

「後の事を、頼みましたよ。」

と、和人様におっしゃられました。

後の事・・・。

由里様は自分が去った後の、篠宮家の事を案じておられたのです。

「・・・はい。」

和人様も、由里様の手を強く握りしめておいででした。

由里様はそのままお車に乗り込み、篠宮家の屋敷を後にされたのです。

和人様は、ずっと・・・。

車が見えなくなっても、その方角を見つめていらっしゃいました。

幼い別れ。

和人様の後ろ姿を、私もまた、見つめていたのでした。