―――それから数年後。

還暦を迎えようとなさっていた和人様は、『長谷川』の社長の座をご勇退される事となりました。

後進にあとを任せる決心をなさったのです。

それまで第一線で駆け抜けてきた和人様の決断は、社内に波紋を呼びました。

が、時代の変わり目とは常にそういうもの。

しばらくすると、新社長・新体制のもと『長谷川』は安定した経営を続けていました。

和人様も社長業を退いたとはいえ、会社には顔を出し、社員との触れ合いを欠かすことはありませんでした。

私も、その数年前に退職。

亡き、長谷川さんのご自宅を守りながら、和人様のお世話にも、今まで以上に身を入れる日々が続いておりました。



和人様が『長谷川』に来られた時は、先代社長を含めて4人しかいなかった、小さな会社に過ぎませんでした。

それを和人様が、一大企業に成長させたのです。

いえ、和人様おひとりの力ではなく、社員が一丸となって今日の『長谷川』を作り上げてこられたのです。

和人様は頼もしい、若い社員たちに後を託していかれたのです。