高沢みちる殿。

始めに。

君に何の断りもなく、わがままな遺言を残した私の事をどうか許して欲しい。

君には本当に感謝している。

筆舌には尽くしがたい、大きな愛情を私は君に貰った。

妻を亡くし、戦争で一人息子も失った私には何の故か、ただ働いて日々の糧を得る事のみが、生き甲斐といえば生き甲斐。

さりとて、私が死んだところで残す物も、残される者もいない。

私がいなくなれば『長谷川』も終わりだ。

そう考えて生きていた。
君が来るまでは。

いつか君にも話したが、君を迎え入れたのは、篠宮の旦那様へのご恩返しの気持ちからだった。

いずれは君自身で、新しい人生を切り開いていくだろう。その間の一時的な預かりになると、私は思っていた。

でも、みちるさん。

君は私の身の回りから、会社の事すべてにおいて、真剣に心を込めてやってくれた。

私は本当に嬉しかった。
君は私に、新たな命を吹き込んでくれたのだよ。

欲を持って生きること。

簡単に言えばそんなところかもしれない。

みちるさん。

君にも、もう少し欲を持って生きて欲しい。

幸福を掴んで欲しい。