それは、確かに長谷川さんの毛筆の文字でした。

「長谷川さん・・・。」

自然と私は呟いていました。

和人様はただ、口を真一文字に堅く結ばれていました。

私は、弁護士の方に問いかけていました。

「長谷川さんはいつ、これを?」

「一ヶ月ほど前です。私の父と古い知り合いらしくて・・・。それで私が預かる事になりました。」

そんなやりとりの間も、和人様は遺言書の文面を、ずっと見つめておられました。

「長谷川さんはお二人に、しっかりとしたものを残したいのだと、そうおっしゃられていました。」

私と和人様を交互に見ながら、弁護士の方はそう告げました。

「あと、遺言書とは別にお二人に一通ずつ、お手紙をお預かりしております。」

弁護士の方はおもむろに、新たな封筒を二つ、私たちの前に置きました。

「手紙?」

「はい。遺言書とは別に、二人に渡して欲しいと。」

封筒の表書きには、
『篠宮和人殿』
『高沢みちる殿』

と、それぞれに私たちの名前が記されていました。

私と和人様はその手紙に、その場で目を通したのです。