―愛彩―

――和人様が20歳を迎えようとなさっていた夏。

窮状に耐えかねたのか、旦那様はお一人で夜逃げをされてしまいました。

二人の息子にすべてを押し付けて、行方をくらましてしまわれたのです。

雅之様は家財道具も売り払い、何とか取り繕っておられましたが、篠宮の家は破産するに至ったのでございます。

屋敷も人手に渡る事となり、8歳から篠宮家にお世話になっていた私も、お屋敷を出る事となったのです。

最後まで残った使用人は、私を含めてたった3人でした。

「みちるさん。今日までよく務めて下さいました。」

雅之様は、私のような者に、ねぎらいの言葉をかけて下さいました。

以前は、厳格でとても近寄れないようなお方でしたが、お家の破産で人が変わられたようになっておられました。