高校2年生。


学校にも慣れ、部活でもそこそこ活躍するようになり、人間関係においては特に真新しいものを感じられなくなる、良くも悪くも安定した所謂『普通』の日常というものに最も当てはまるのが、この学年であろう。


2年生に上がり、そんな普通の日常に飽きてきた冬のある日。
共学の公立高校2年の赤羽芽衣子(あかばめいこ)はその退屈を持て余していた。


クラスでは目立つわけでも、かといって疎遠されるでもないポジション。
所属する部活である文芸部でも特に賞をとるわけでもなく、内申のことを考えてただ何と無くやっているに過ぎなかった。

そんな普通に飽々していた芽衣子は、ある日クラスの友達との買い物の後、少しでも普通の日常にスパイスを与えるためにいつもとは違う帰り道を選んだ。


2月というものは真冬であるわけで、殊更芽衣子の住む北海道という土地は冬は暗くなるのが早い。
多少喫茶店で時間を潰しただけだったのだが、辺りは既に暗く、闇色の空からは白い雪がちらついていた。

「早く帰らなきゃ…」


そう言いながらも、いつもとは違う道を通る。
芽衣子は時折こうした行動に出る為に、実際はいつもの通学路、なんてものは存在しないのだが。


真っ暗な空。
真っ白な雪。


それを照らす街頭や店の明かりの届かない、ビルとビルの間の路地裏。

初めて通るその雪道を、芽衣子は黒のローファーでのんびりと足跡をつけながら歩いて行く。


辺りを見回した所で、後ろには今通ってきた道に足跡が残るだけ。
左右には高くそびえるビルの壁があるだけだ。


芽衣子は仕方なく足元を見下ろしながらただひたすらに歩く。
お気に入りの赤いマフラーに口許を埋めながら、その隙間から白い息を吐き出して。