「我らが主、シルヴァルス神より下った令を伝えるときが来た」

 薄暗い、広大な神殿の内部に威厳溢れる低い声が響く。松明に照らされた空間の中、約四千の瞳が一点に向けられていた。
その焦点となっている、大きな椅子に腰掛けたこの集団の長らしい男が、自分を見つめる者達を一見し、言う。

「この数世紀の間、かつてエマにより屈辱的な大奇襲を受けた、我ら崇高なるイヴの一族は少しずつその勢力を取り戻し、やっとのことで二千と言う数にまで民を復活させた。シルヴァルスの神は時は来たと告げておられるのだ」

 重々しく放たれた長の言葉に、神殿中の空気が一気に張り詰めるのが痛いほどに感じられた。

「思い出せ」

 その空気を当然ながら自らも感じ取った長は、いくらか慈悲のこもった声で民に呼びかける。

「ぬしらも見たであろう。あの恐ろしい戦乱の記憶を。今こそあの屈辱的歴史を塗り替えるのだよ。計画はすでに動き出した。先祖の恨みを晴らすのだ」

 神殿中が少しずつ、しかし確実に闘志で満たされてゆくのが、長には分かった。
熱を帯びた瞳でざわめきだす民の様子を見守り頃合を見計らうと、もう一度声を張り上げた。

「よいか。神に愛されし子らよ」

 神殿が再び静寂に包まれる。だがそれは先程までの静寂とは明らかに違っていた。
 団結した、決意の静寂――

「我らが復讐を果たすため、シルヴァルス神より一つの令が下された」

 民は沈黙を守り、次の言葉を待つ。