さよならとその向こう側

「教授私には意味が解りません。これが彩夏と何か関係でも?」


すると教授は、真剣な面持ちで私を見たまま話し始めた。



「そこに書いてある"長女"が水嶋君だよ。」


「……は?」


何だ?どういう事だ?


「私も報告を受けた時には、君と同じ様な反応をしたよ。…名字が違うしな。だが、君は彼女の家族に会った事があるかい?もしくは、彼女は家族の話をするかい?」



言葉に詰まった。

確かに彩夏から家族の話しは聞いた事が無かった。

彩夏は一人暮らしだし、今まで気にした事が無かったかもしれない。


「いいえ。会った事も聞いた事もありませんが…。」

だからと言って、この記事が彩夏だなんて信じられない。

思わず手に力が入る。



「この事件の後、彼女は母方の親戚に引き取られたそうだ。そこで養女になり、名字が"水嶋"に変わった。だから地元を離れてしまえば、彼女の過去を知る者等殆どいなくなる。

ここまでなら、水嶋君は辛い過去を持っているというだけで済んだかもしれない…。だが、問題はこの後だ。

10年経った現在も、まだ千佳さんは捕まっていないそうだ。」



「時効…5年後ですか。」


「そうなる。
どうやら殺害された父親は酒好きで家庭内暴力が酷かったらしい。
その事は近所の住人や親戚の人なんかが証言していて、水嶋君に手をあげる事もあったそうだ。
だから、千佳さんは情状酌量の余地があると云う見方だったんだが……未だに逃げ続けてしまっているからな。罪は重くなるだろうし、時効が迫ればマスコミでも取り上げられるだろう。
そうなった時、水嶋君は平常心でいられると思うか?
まして、彼女は千佳さんと連絡を取っているかもしれないしな。」


「え?」


「実の母娘だ。十分有り得る話だろう。実際に警察だって、多少なりとも水嶋君の行動は見張っているらしいしな。」