さよならとその向こう側

「…彩夏聞いて?」


私が返事に困っていると、諭す様に私の目を真っすぐに見ながら話し掛けてきた。


「知ってるかもしれないけど、カナダの大学での研究が成功したんだ。だから、俺の所属している研究チームは、この発見を早く医療の世界へ役立てたいと、大手の製薬会社と契約した。

ただ、研究の世界にも、人の成果を横取りしようと考える奴や、妬みでスキャンダルをでっちあげる奴がいるのも事実。」


「それじゃあ、私は――」
「大丈夫。彩夏は何も心配要らない。」


「…どうして?」


「そういう事から逃れる為にも早々に契約をしたんだ。
つまり、研究結果を教える代わりに、スキャンダルからも守って貰えるんだ。」

なんだか理解出来ない。

どういう事?

腑に落ちない私を見て、実は優しく微笑む。


「大学と製薬会社の間には弁護士がいて、契約書の作成に携わっている。
そして契約書には、細かい内容も全て記載されてる。
例えば、研究チームの誰かのスキャンダルが出た場合、製薬会社は、全力でそれが世間に出回らない様に阻止しなければならない。
つまりマスコミも出版社も抑え込んでくれるって事。」