さよならとその向こう側

「川上、悪いけど…俺にとって川上は大事な従業員だ。それ以上でも以下でもない。」

敦は、川上さんを真っすぐ見ながらそう言い放った。


それでも、周りと川上さんに配慮してか、極々小さな声で伝えていたけれど、やっぱり私には丸聞こえ。


……非常に居辛い。

なんで私の手首を掴んだままそんな事言うの?

これじゃあ聞きたくなくても逃げられない!


ばればれだけど、聞いてないふりをしてそっぽを向いていると、川上さんは更に理解不能な事を言い出した。



「じゃあ…そこの綾さんは…………特別ですか?
だから、仕事を早退してまで探し回って――自分が怪我してまで助けたんですか?」


え?

何、何言ってるの?


「ちょっと、川上さん?
あなた何言って――」
「そうだけど。」


「…は?」


敦が言った言葉を聞いて、何とも間抜けな声が出てしまった。


「…ちょっと敦?」


全然状況が飲み込めない。

特別ってどういう意味?


でも、敦は私の問い掛けには応えてくれず、川上さんと向かい合ったまま。





少しの沈黙の後、

「……帰ります。」

そう告げて、川上さんは敦にお辞儀をしてからカフェテリアを去った。

――涙を流しながら。