さよならとその向こう側



聞いて欲しかった。

だからゆっくり、自分の言葉で説明した。


事件の真相。

お父さんの病気の事。
お母さんがお父さんの手紙を見て現場を飛び出して行ったであろう事。

実は何も言わず、ただ私の話を聞いていた。


「事件があったあの日、お母さんは姿をくらました。
でも、家族や警察の人達は自殺するつもりだって直ぐに分かったの。

実際にお母さんの足どりをたどったら・・・ある場所を最後に痕跡が無くなった。」

「・・・・・・」

「観光名所なんだけど・・・断崖絶壁でね。潮の流れが複雑だから、そこから身を投げたら上がって来る事は殆どないんだって。
警察が調べたら、お母さんをそこまで乗せたタクシーの運転手さんがいたって。
夜の9時過ぎに、独りで、そんな場所に行きたいなんて言うから心配になって、本当に行くんですか?って何回も尋ねたらしいの。でも、お母さんは『主人が待ってますから』と告げたって・・・」



小さく静かに頷きながら、震える私の手を優しく包み込む実。

「ごめんな。嫌な事思い出させて…」

「ううん、いいの。つい最近だけど、お父さんもちゃんとお母さんを愛していた事が分かっただけでも、嬉しかったから。昔ほど、辛い過去ではなくなってきてるの。」


そう、あの手紙のお陰。
 
でも、そこから学んだ事もあった。


ね、お父さん?



・・・だから私は、優しい実の手を・・・そっと離した。