さよならとその向こう側




少しの時間が流れた。



まだ、かなり動揺しているけど、それでも笑顔は作れる。

目が合った志乃に微笑み返す事が出来た。


「すみません、コーヒーおかわり頂けますか?」


ウェイターに頼んで、熱いコーヒーを貰った。

カップに手をそえて、指先を温める。

コーヒーのいい香りと湯気に少しずつ癒されていく。


「あのね、彩夏。」

「うん?」


「神田助教授、多分・・・綾さんとは結婚しないと思う。」

「え?」


耳を疑った。


さっきの話の後だから、そんな大した事は話さないだろうなんて考えて、心構えしていなかった。

何?どういう事?


「な、なんで?」


折角落ち着き始めた心臓が、また煩い位に大きな音を立てて動き始める。


「だって、今年度限りで退職するみたい。」

「退職?実が?・・・嘘、だって・・・」


綾さんを選んだはずじゃないの?


「嘘じゃないの。しかもね、クリスマスイヴに綾さんは交通事故に遭って、ずっと入院してたの。佐和田教授も神田助教授も、毎日連れだってお見舞いに行ってたみたいだけど、ある日を境に病院には行かなくなったって。それに3月に入ってから突然退職を発表して・・・だから、綾さんとの結婚話がなくなったんじゃないかって、皆噂してる。」