さよならとその向こう側

そう、私のせい!!



どうして実さんは、私を責めたりしないのだろう?

もう父の下で働かないなら、私に暴言を吐いても、
「綾さんのせいで辞職する事になりました。」
とか、嫌味の一つ位言ってもいいのに。



実さんはいい人過ぎるよ。


「…あの、実さん?」

「はい?」


「こんな事聞ける立場じゃないですが…辞めた後はどうするつもりですか?」


分かってる。

聞いても仕方ない。

本当は聞いてはいけない。

でも、私のせいで大学を辞めて……。

大丈夫なのか心配だから。


「…もう、次の就職先は決まっています。ですから、心配なさらないで大丈夫ですよ。」


いつもの爽やかな笑顔で、実さんは答えた。



――ああ。

この笑顔。

大好きな実さんの笑顔。



でも、今やっと気づいた。
この笑顔は亜沙美が言った通り。心から笑っていない。

私に気を使って、微笑んでいるんだ。

実さんなりの優しさ。

だから、特別じゃなくて、きっと誰にでも見せる顔。


本当なら私なんか、話もしたくないのかもしれない。
そうだよね。

実さんにとっては私の気持ちなんて迷惑なだけだろうし。


だからこそ、次の就職先を詳しく教えてくれないのだろう。