少し、悩んだ。

正直に綾さんの事を伝えるべきなのか?

だが、こんな私に自分の過去まで話してくれた教授を、さらに傷付ける事になるのではないか?




「もう、伝えてあるのですが・・・。」

「そうか。」


そう呟いた教授の背中はどこか儚げで・・・いつもの威厳は見えなかった。

申し訳なくて、真実をありのまま話す事など出来なかった。

けれど、いつまでも、別れた男のところに娘が通い続けていると分かれば・・・。

それはそれで教授は胸を痛めるに違いなかった。



「教授、実は・・・綾さんには納得して貰っていません。忘れられない女性がいると伝えたのですが。」


毎日マンションで待っている。

とは、さすがに言えなかった。

だが、教授から帰って来た言葉は意外なもので。



「そうだろうな、毎日君の車で帰って来ている様だし。おおかた、君の帰りをどこかで待っていて困らせたりしてるのだろうな・・・。ただ、私はそれがただの喧嘩だとばかり思っていたが。
悪いな神田君。ついつい甘やかしてしまって、わがままに育ってしまったのかもしれん。
綾には、私からも、諦める様に伝えておく。」


「教授!!本当に申し訳ございません!!」


教授の苦笑いがあまりにも切なくて、

ただただ深く頭を下げて謝った。