さよならとその向こう側

車の側に行き中を覗くと、実さんと目が合った。

だけど彼は、軽く会釈をしただけで。

いつもの様な、優しい笑顔はそこには無かった。


そして、そんな些細な事が私の胸を締め上げて苦しくさせる。



助手席のドアを開けて乗り込むと

「何処か行きたい場所はありますか?」

そう尋ねられた。



行きたい場所?

私にはある。

ひとつだけ。


「実さんのマンションに行ってみたい。」


俯いたままそう答えた。


「え?うちですか?」

実さんの少し驚いた様な声がした。



さっきの彼女が実さんのマンションにいるの・・・かな?

だから、戸惑っているのかな?



嫌な想像が頭を過ったけど、あえて触れないでおいた。



「だって、私まだ実さんのマンションにお邪魔した事ないんですよ?彼女なのに・・・。」


何も気づかないふりをしてそう付け加えてみた。

私が入った事の無い部屋に、他の女の人がいたかも知れないなんて我慢できない。

だからお願い。

断ったりしないで。

実さんのマンションに連れて行って。


まだ、私は実さんの彼女でしょ?