ふたつの恋の物語

沙織はきょとんとして口に手を添え
『東子ちゃん、春樹くんと付き合ってるの?!』

と知らなかったかのように言った。


「そうだよ・・・」

あたしはいらいらした。
ちゃん付けなんていつもしないくせに。


『でも、沙織が触っちゃいけない理由にはならないでしょ?
ね、春樹?』

沙織はハルに近付いて腕を絡め、ハルを上目遣いで見た。

ハルの目は泳いでいる。


何で呼び捨てなの?!

しかも・・・・


何?
何でふりほどかないの?
何で拒否しないの?


そんなハルにもいらいらした。


『春樹は東子ちゃんのものじゃないのにねっ。』

そう言って沙織はハルに抱きついた。



ぷつっ


あたしの中で何かが切れた。

抱きつく沙織。
動揺するハル。



あたしの怒りは沸点を通り越した。


「あっそ。好きにすれば?」

あたしは教室から出た。
ドアがバタンっとすごい音を出した。


後ろから美幸と志織が追いかけてきた。
あたしはくるっと後ろを向いた。

「大丈夫!!ちょっと保健室行ってくるね!」

『東子・・・』

「ごめん、1人にして・・・」

あたしは保健室に向かって走った。
涙が出るのが悔しかった。