-グロズビーの森-

「うっ…暑っ!」

魔都の八月は耐え難いほどに暑い。
太陽から直接降り注ぐ日差しが硬い地面に照り返し、倍となって容赦なく人々を襲う。
シールズ・エリヒシュッツは“こりゃあたまらん。”と小さく呟き、クロズビーの森へ続く暑く焼けた道を裸足のまま走り出した。
彼は、早朝から昼前まで続いた剣の稽古で汗まみれになった体を一刻も早く冷たい水で洗いたかった。
グロズビーの森にある泉での水浴は、シールズの数少ない楽しみの一つだった。


「…なんだ。先客がいるのか。」

シールズは、泉の辺に人影を見つけ残念そうに呟いた。
人影の方も下草を踏む人の気配に気が付き、ゆっくりとこちらを振り返った。