この世界で君を愛す

正木は今までの落ち込みが嘘のように勢いよく立ち上がると 阿部さんに歩み寄り自己紹介を始めた。


「始めまして。正木健一です。上田さんの後輩です。よろしく」


そして半ば強引に握手をすると「さあ どうぞ!狭い所ですが…」と 阿部さんを部屋に招き入れようとした。



…狭くて悪かったな。


だいたいお前の家じゃないだろう?



僕が心の中でぶつぶつ文句を言っていると阿部さんの後ろから 拓也君が元気に飛び出してきた。


「こんばんは!お兄ちゃん お姉ちゃん!」


何事かと固まっている正木に 僕は説明した。


「阿部さんのお子さんの拓也君だよ」


「おっお子さん…!?…はは…そうですか…お子さんねぇ」


再び正木をどんよりとした空気が覆った。



出会って一分で失恋とは…。


今までの最速記録に違いない。



まあ…正木のことだ。

すぐに新しい恋をするだろう。



と…その時の僕は軽く考えていた。