この世界で君を愛す

阿部さんに住所と目印になる建物 そして電話番号を伝えて 僕と未知は一足先にアパートへ戻った。

僕がソファーに座ってタバコを吸っている間 未知は簡単に部屋の掃除をしていた。


「ちょっとー。少しは渉も手伝ってよ」


未知がほっぺたを膨らませて怒るので 僕は重たい腰を上げた。

僕は棚の上を整理しようとして手を止めた。



僕と未知が二人で笑っている写真。


僕達の未来を信じて疑わなかったあの頃…。


青空の下の二人。


この先…土砂降りの雨が降るとも知らずに。



「渉?どうかしたの?」

後ろから未知に声をかけられ 僕は写真たての位置を直した。

「何でもないよ」

「…そう」

僕は訝しげな顔をする未知の背中をキッチンまで押して行った。


「さあ。次はすき焼きの準備をしなきゃ。材料を切っておこう」


僕達は並んでキッチンに立ち 仲良く作業を始めた。



―ピンポーンー



阿部さんが到着するにはまだ早い。


僕達は顔を見合わせた。