この世界で君を愛す

朝の開店前に私が入口の窓ガラスを拭いていると　後ろから声を掛けて来た人がいた。


「おはようございます。いつも朝早くから大変ですね。」


振り返った私の前にいたのは　スーツを着こなして　すらりとした背の高い一人の男性。


…？


…あっ！


私はその人が渉だとわかるのに数秒かかり　名前も知らない事に気付いた。


「おっおはようございます。ええと…。」


「上田です。上田渉といいます。飯田未知さん。」


「どうして私の名前を…？」


渉はおかしそうに笑った。

「だってそのネームプレートに書いてありますから。」


「あぁ　そっか。」

私は照れ笑いをした。

一度彼の前で笑ったら緊張がほぐれて肩の力がすうっと抜けたような気がした。


「すぐに上田さんだとわかりませんでした。今日はいつもと違うから…。」


「あぁ　いや　ははは。いつもはひどい格好ですものね。ちょっと事情があってね。」


「事情？」